縄田三佳。社労士事務所で働きながら、プリメイラのキャプテンとして日本一を目指してプレーする。華奢な身体つきながら相手の攻撃の芽をつむ守備力と、スピードに乗った攻撃参加が印象的。1994年生まれとまだ若いが、今季でチーム7年目になる。小中高とキャプテンとは無縁の競技生活だったが、プリメイラでは人生初のキャプテンに。その理由を尋ねると「誰とでもコミュニケーションを取れるから、でしょうか?」とのこと。このたび、初めてフットサル女子日本代表に選出された。

あまりにも低い女子フットサル競技の認知。それを変えたい。

アスレファンの方に質問です。
女子チームである府中アスレティックFCプリメイラの試合を見に行ったことはありますか?
「知らない」「興味がない」という人も多いだろうし、実際どれくらいの人が『YES』と答えてくれるのだろうかわからないが、見に行ったことがないというアスレファンのあなたも、今までに何度も女子選手と接しているはずだ。
Fリーグホームゲーム開催時、チケット窓口にいるスタッフ、グッズコーナーでレプリカユニフォームなどを販売している女性たち、その多くがアスレの女子選手だ。
女子トップチームの選手は、自分たちの試合がない日には、府中アスレティックフットボールクラブの一員としてFリーグの試合運営を手伝うこともある。
縄田三佳は「Fリーグの試合にスタッフとして参加すると、たくさんのお客さんが応援に来てくれることが、とてもうらやましく思います」という。そして「女子の試合にも、ひとりでも多くの人が応援に来てほしいです」と訴える。

Fリーグや男子の試合しか見たことがない人も、ぜひ一度女子の試合観戦に行ってもらいたい。
女子だからといって、日本トップカテゴリの試合を侮ってはいけない。
1対1で相手を抜き去るテクニックや、カウンターからのファー詰め、トリッキーなセットプレーなど、随所に『フットサルらしい』プレーをみることができる。ボールの奪い合いなどは見ている方も力が入るし、最後の1秒まで目が離せないのはFリーグと同じ。試合の面白さはまったく引けを取らない。
初めて見た人が「女子の試合も面白い」と感じることは間違いないだろう。
だからこそ縄田三佳は、キャプテンとしてチームをまとめるとともに、この競技の未来のために、リーグの認知をあげて競技環境の底上げをしたいと日々考えている。

多くの選手が競技と仕事の両立に苦心している

昨年、日本女子フットサルリーグで、リーグ戦1位。プレーオフ準優勝という結果を残した府中アスレティックFCプリメイラ。キャプテンを務める縄田三佳は、フットサル日本女子代表にも選出され、2018年8月30日からポルトガル遠征に旅立つことになった。
日本代表に選出されたことで、1週間日本を離れる。
縄田は、初めて代表に選ばれたことを嬉しく思い、一番のサポーターとして常に応援してくれる両親に報告するのはもちろん、まず勤務先に「日本代表に選出されたので、海外遠征のために1週間会社を休ませてほしい」と休暇の申請をした。
フットサル日本女子代表選手とはいえ、通勤電車に乗り毎日仕事に通うOLだ。8時半から17時半までフルタイムで働いている。幸いにも勤務先は縄田の競技活動を応援してくれているため、喜んで休暇を認めてくれた。
しかし、全ての選手がそのような環境で働いているわけではないようだ。
フットサル日本女子代表に選出されても、どうしても抜けられない仕事があれば、競技より職務を優先せざるを得ない選手もいる。競技者の前に社会人だからだ。
縄田は、海外遠征に行かせてくれる職場と、仕事のサポートをしてくれる同僚たち、そして今の環境に心から感謝している。

初めは遊び気分で始めたフットサル。

縄田はフットサルを始めて7年目。それまでは小学生の頃からずっとサッカーをプレーしていた。
中学でもクラブチームでプレーし、高校では成立学園高校へ進学。女子サッカー部では全国大会ベスト8になるなど、部活として満足のいく結果を残せた。
「燃え尽きたというわけじゃないですけど、もうサッカーはいいかなと思いました」というように、大学進学後はサッカー部には入らなかった。
しかし、小学生から打ち込んできたサッカーのない日々はやはり退屈で「やっぱりボールを蹴りたい、体を動かしたい」と思い、同じような思いを抱えていた高校のチームメイトたちと、「フットサルをやってみようか」と話し、チームを探すことになった。
フウガドールすみだ、ペスカドーラ町田など都内の女子チーム5クラブの見学をし、最終的に府中アスレティックFCに入ることとなった。

見るとやるのではまったく違う。

実際にフットサルを始めてみたら、予想以上に苦労した。基本的にサッカーは広いグラウンドでプレーする。相手とのスペースもあり、1プレイごとに考える余裕もあったが、フットサルは常にプレッシャーの連続で僅かなトラップミスも即ピンチに繋がる。
プレーも思考もスピードが求められた。そもそも、こんな本格的な競技志向のチームでやるとは思っていなかった。
「まったくフットサルに慣れてなかったので、うまくプレーできず、1年目はプレーしても楽しいとは思えませんでした」というように、初年度はひたすらに基礎を身に着けた。そして翌年はメンバーの入れ替わりもありプレー機会が増えると、着実に技術や戦術を理解しはじめた。
すぐに縄田は、トップチームのメンバーとなり、東京都リーグでプレーするようになった。
本人のレベルアップと、クラブが女子チームの強化を進めていったタイミングも合致していた。縄田がチームに入ってから、毎年のように高いレベルのメンバーが加入するなど、チーム力は上がっていき、2016年に日本女子フットサルリーグのプレリーグに参加。縄田はキャプテンとして全国を舞台で戦うようになった。

日本一をかけた決勝を経験したからこそ、リベンジに燃える。

2017年、チームは初年度の日本女子フットサルリーグに参加。エスポラーダ北海道イルネーヴェ、バルドラール浦安ラス・ボニータスといったFリーグクラブの女子チームや、アルコイリス神戸など全国の強豪クラブによるリーグ戦を戦った。
そして「相手はみんな格上、負けて当然という開き直りで思い切ってプレーした」結果、着実に勝点をつみあげ、下馬評を覆してリーグ戦を1位で終えることができた。最終的にプレーオフ決勝で敗れたものの、日本リーグ初年度を堂々の準優勝という結果で終えた。
縄田は「去年はラッキーもあって決勝まで進めたので、今年こそ実力で日本一のタイトルを取りたい。そして女子フットサル全体の発展のためには、競技環境を良くしたい。そのためにはもっとたくさんの人に試合を見に来てもらい」と願う。

チーム強化のために、関東リーグと掛け持ちで戦う。

日本女子フットサルリーグに参加するチームは、日本リーグだけでは試合数が少ないため、地域リーグと掛け持ちで戦っている。プリメイラは今季より東京都リーグから昇格し、関東女子フットサルリーグにも参戦しているので毎週のように試合がある。
2つのリーグに参加して、多くの試合をする。考えてみれば当たり前だが、毎週のように試合があると、様々な出費を伴う。東京都リーグの頃とは比較にならない。試合会場も遠方ばかり。
全国リーグは北海道や神戸、福井、関東リーグでも栃木や茨城、千葉で開催されるから、遠征の交通費だけでも大幅に増えた。それらはクラブの事業やスポンサーからの支援でまかなわれるが、やはり、日本一を目指すクラブとして、練習環境の整備や、少しでもよいコンディションで試合に臨むことを求めると、現状のままではチームの運営資金が厳しく選手にも負担が掛かる
実際、プリメイラの選手も会費という形で費用の負担もしている。女子フットサルはプロではないから、競技を続けるにはあらゆるところでお金が掛かる。でもみんなフットサルが好きだからやっている。
他クラブでは、会費や遠征費用などで年間数十万円の持ち出しが発生することもあるという。条件は各チームそれぞれだが、他のチームの選手たちもみんな、趣味や遊びを封印し、日本一を目指してフットサルをプレーすることを選んだ仲間だといえる。
「それでも、府中の場合は比較的恵まれている環境だと思います」と縄田はいう。
2000年に創設され、日本トップクラスの実力を誇る男子トップチームはFリーグで戦っている。地域に根づいて活動し続けた結果、多くのスポンサーの支援もあり、縄田を始め府中の選手も、移動時は揃いのチームウェアをまとい、試合では胸にH.I.S.と背中にデリバリーサービスのロゴの入ったUMBRO製のブラウンのユニフォームを着て戦う。
試合を子どもが見れば、プロの女子フットサル選手だと思うだろう。
アマチュアとはいえ、クラブはスポンサーの支援を受け、日本リーグでは有料試合を行う。もはや好きでやってる趣味の延長、というレベルではなくなった。数年前に比べて選手の意識も大きく変わってきた。甘えは許されない。
縄田は「リーグ全体の価値を上げてスポンサーや観客が増えて、全てのクラブや選手の競技環境がよくなってほしい」と思っている。
しかし、そのためには自分たちが「支援されるべき存在」にならなければならないこともわかっている。人に応援してもらう立場になるためには、その資格が必要だから。

支援されるべき存在、それは勝利で観客を笑顔にすること。

約1年前、2017年8月19日。この日開催されたFリーグ2017-18第11節、湘南ベルマーレ戦。府中市立総合体育館で行われるFリーグ最後の試合、府中ラストマッチ。この日の入場者数は1,520人。郷土の森は立ち見が出るほどの満員だった。5-4と点の取り合いとなったこの試合は、試合終了間際に同点に追いつき、さらに逆転しての劇的な勝利。38分54秒に渡邉知晃の決勝ゴールが決まった瞬間、満員の観客は総立ちとなり体育館は揺れた。観客の心に残る、まさに伝説となる試合だった。
この日、縄田は関係者受付の担当として運営に参加していた。試合の後、楽しそうに会話しながら会場を後にするたくさんの観客たち、興奮と感動の入り混じった笑顔で歩く人々を眺めながら
『フットサルという競技でこれだけの人を幸せな気分にさせることができるのか』と、アスレの勝利を喜ぶクラブメンバーのひとりとして思っていた。
しかしそれと同時に、この体育館で試合を行う競技者として、やや複雑な思いを抱いていた。
実際、その試合の約一ヶ月前、2017年7月22日に開催された第一回日本女子フットサルリーグ第5節を、初めてのホームゲームとして戦った。プリメイラとして初めての有料主催試合だ。府中市立総合体育館に集まった観客の数は685人。Fリーグの試合と重ならなかったため、多くのサポーターも駆けつけてくれたが、初のホームゲームの緊張からか、得点を奪うことはできずに試合は0-0の引き分けに終わった。
この日縄田が感じたのは、勝てなかった悔しさと同時に、
「今日のお客さんは、チケット代金の価値を感じてくれただろうか」
「自分たちのプレーで、どれくらいの人を笑顔にできるのだろうか」
という思いだ。
やはり、応援してくれる人たちに喜んでもらいたい。Fリーグの府中ラストマッチの盛り上がりを見て、あらためて思った。自分たちにはまだまだ足りないことが山ほどある。何より「勝つことで、応援にきてくれた人に笑顔で帰ってもらいたいと」思った。特に有料試合ならなおさらだ。

そして府中ラストマッチからちょうど一年後の2018年8月19日。府中市立総合体育館で関東女子フットサルリーグの第7節、府中アスレティックFCプリメイラ対さいたまSAICOLOの試合が行われた。
入場無料の関東リーグ。選手の家族や友人、そして熱心なファンが応援に来てくれたこの試合の入場者数は210人。太鼓を叩いて声を出してくれる人がいる。その声援を力に、プリメイラの選手は勝利を目指して最後まで諦めずにプレイした。
先制した府中に対して、すぐにさいたまが追いつくことの繰り返し。3-3でこのまま引き分けかと思われた39分32秒に、府中の藤田実桜のゴールが決まり、残り時間を必死で守りきって見事4-3で勝利した。
まるで1年前のFリーグの激闘を彷彿とさせる展開だった。
得点した直後に失点を繰り返した試合内容には決して満足していない。でも、ある意味スペクタクルな試合展開であり、勝利を届けられたことは嬉しく思う。
試合終了後、スタンドを見上げれば笑顔の家族や友達、いつも応援に来てくれている熱心なファンの人達がいる。心の底から感謝の気持ちをもって、頭を下げ笑顔を見せる。
キャプテンとして縄田は、自分たちが応援してもらえるべき存在であることを証明する。そう思ってプレーしている。
そして多くの方にいただいた支援に対する感謝の気持ちとして、勝利を届けたい。その覚悟を持って、選手たちは戦っている。
今季の日本女子フットサルリーグ、府中開催は11月17日。ぜひ、その姿を皆さんにも見てほしい。

※記事内におけるチーム名、肩書、数値データなどは取材時のものです。


縄田三佳のTwitterアカウント

TEXT&PHOTO   KEN INOUE  2018.8.25